この記事は「世界を読む基礎講座」の第6回です。
前回は「【第5回】同盟とは何か|NATOを例に集団防衛と抑止の仕組みをわかりやすく解説」で、国家が攻撃を思いとどまらせるために結ぶ安全保障上の約束を整理しました。
今回は、同盟が防ごうとしているものでもある「戦争」について見ていきます。
シリーズ全体はこちら:【まとめ】世界を読む基礎講座|国際情勢を構造で理解するための入門ガイド
「戦争とは何でしょうか?」
いきなり難しい質問をしてしまいました。
「国と国が戦うこと。」
「軍隊がぶつかること。」
「ミサイルが飛ぶこと。」
「街が破壊されること。」
「人が避難を強いられること。」
これらは、どれも戦争の一部です。
しかし、戦争を「怖いもの」「悪いもの」とだけ見ていると、構造が見えにくくなります。
「なぜ戦争は起きるのか?」
「侵略と自衛はどう違うのか?」
「戦争と武力紛争は同じなのか?」
「国際法は戦争をどう見ているのか?」
「戦争にもルールがあるとは、どういうことなのか?」
「そして、その中で誰が一番傷つくのか?」
戦争は、自然災害ではありません。
多くの場合、国家や武装組織が、政治的な目的のために暴力を使うことで起きます。
だからこそ、ただ「悲惨だ」と感じるだけでなく、何が起きているのかを分けて見る必要があります。
この記事では、戦争を感情ではなく構造から見ていきます。
ただし、それは戦争を冷たく眺めるためではありません。
背景を理解し、暴力を正当化せず、誰が傷ついているのかを見るためです。
第1章 戦争とは、政治的な目的を暴力で通そうとすること
戦争は、ただの暴力ではありません。
多くの場合、そこには政治的な目的があります。
- 領土を取りたい
- 政権を守りたい
- 相手の政策を変えたい
- 資源や航路を押さえたい
- 勢力圏を広げたい
- 民族や宗教の支配を強めたい
- 国内の不満を外に向けたい
戦争は、こうした目的のために、組織的な暴力が使われる現象です。
戦争は突然空から降ってくるものではありません。
戦争には、多くの場合、積み重なった背景があります。
- 恐怖
- 不信
- 軍拡
- 同盟関係
- 領土問題
- 資源
- 歴史認識
- 国内政治
- 指導者の判断
- 情報操作
しかし、背景があることと、戦争を正当化することは違います。
- ある国に不安があった
- 歴史的な不満があった。
- 安全保障上の恐怖があった
それを見ることは必要です。
しかし、それが他国を侵略してよい理由になるわけではありません。
理解することと、許すことは違います。
これは、戦争を読むときに最も大切な線引きです。
第2章 侵略とは何か

戦争を考えるうえで、まず分けたいのが侵略です。
侵略とは、簡単に言えば、国家が武力を使って他国の主権、領土、政治的独立を侵すことです。
国連総会決議3314号の「侵略の定義」は、侵略を、ある国家が他国の主権、領土保全、政治的独立に対して武力を用いることなどと説明しています。(国連法務局)
侵略が重大なのは、単に戦闘が起きるからではありません。
国家が自分たちのことを自分たちで決める権利を、外から力で壊すからです。
前回までの記事で見たように、国家には主権、国境、政府があります。
侵略は、その土台を武力で踏みにじります。
国際秩序にとって重大な問題なのです。
ここで大事なのは、「安全保障上の不安」と「侵略の正当化」を分けることです。
ある国家が、周辺国や同盟の動きを不安に感じることはありますが、
不安があるからといって、他国の領土を力で奪ってよいわけではありません。
第3章 自衛権とは何か
一方で、すべての武力行使が同じ意味を持つわけではありません。
国際法では、武力の使用は原則として禁じられています。
しかし、例外があります。
その一つが自衛権です。
国連憲章第51条は、加盟国に対して武力攻撃が起きた場合、個別的または集団的自衛の固有の権利を認めています。(国連法務局)
つまり、自国が武力攻撃を受けたとき、何もせずに攻撃され続けなければならないわけではありません。
防衛する権利があります。
また、同盟国などが攻撃された場合に、一定の条件のもとで助ける集団的自衛もあります。
ここで、前回の「同盟」とつながります。
同盟は、攻撃された国を一国だけにしないための仕組みです。
ただし、自衛権も何でも許す魔法の言葉ではありません。
自衛を名目にして、必要以上の攻撃をしたり、無関係な地域を破壊したり、民間人を標的にしたりすることは正当化されません。
- 自衛かどうか?
- 必要性があるのか?
- 均衡が取れているのか?
- 民間人を守っているのか?
こうした問いが必要になります。
第4章 「戦争」と「武力紛争」は同じではない
ニュースでは「戦争」という言葉がよく使われます。
しかし、国際人道法では、「武力紛争」という言葉が重要になります。
なぜでしょうか?
それは、当事者が「これは戦争ではない」と言っても、実際に武力紛争の状態であれば、国際人道法が適用されるからです。
ICRCは、国際人道法が適用される武力紛争について、当事者が戦争と認めるかどうかではなく、事実と法的基準に基づいて判断されると説明しています。(ICRC)
ここはとても重要です。
国家は、政治的な理由で「戦争」という言葉を避けることがあります。
「特別軍事作戦」
「治安作戦」
「対テロ作戦」
「限定的な軍事行動」
さまざまな表現が使われます。
しかし、呼び名だけでは決まりません。
- 実際に、組織的な武力の衝突があるのか?
- 国家同士の戦闘なのか?
- 国家と組織化された武装集団の衝突なのか?
- どの程度の強度があるのか?
- 武装集団に組織性があるのか?
こうした事実で判断されます。
つまり、国際法の視点では、
「何と呼ばれているか」
だけでなく、
「実際に何が起きているか」
を見る必要がるのです。
第5章 戦争にもルールがある

戦争が始まると、何をしてもよい。
そう考える人もいるかもしれません。
しかし、国際法はそう考えません。
戦争にもルールがあります。
この分野を、国際人道法と呼びます。
国際人道法は、武力紛争の影響を制限し、戦闘に参加していない人や参加しなくなった人を保護し、戦闘の手段や方法を制限するルールです。
ICRCは、国際人道法が区別、比例性、予防といった原則を中心に、敵対行為の方法を規律すると説明しています。(ICRC)
ここで大切なのは、国際人道法は戦争を美化するためのものではないということです。
戦争が起きてしまったときでも、被害を少しでも制限するための最低限のルールです。
- 民間人を攻撃してはならない
- 病院や学校などの民用物は保護されるべきである
- 捕虜や負傷者は一定の扱いを受けるべきである
- 不必要な苦痛を与える手段は制限される
- 攻撃には予防措置が必要になる
戦争の中でも、人間を完全に消してはいけない。
そのための線引きが国際人道法です。
第6章 最も重要なのは、民間人を区別すること
国際人道法で特に重要なのが、区別の原則です。
これは、戦闘員と民間人を区別するという考え方です。
ICRCの慣習国際人道法データベースは、紛争当事者は常に民間人と戦闘員を区別しなければならず、攻撃は戦闘員にのみ向けられ、民間人を攻撃対象にしてはならないと説明しています。(ICRC IHL Databases)
この原則がなければ、戦争は際限なく残酷になります。
- 軍事目標と民用物を分ける
- 戦闘員と民間人を分ける
- 攻撃対象にできるものと、してはならないものを分ける
これは、戦争の中で人間を守るための最も基本的な線引きです。
もちろん、現実の戦場では難しい場面があります。
- 市街地で戦闘が行われる
- 軍事施設が民間地域の近くにある
- 武装組織が民間人の中に隠れる
- 情報が不完全なまま判断される
それでも、難しいからといって原則が消えるわけではありません。
むしろ、難しいからこそ原則が必要です。
戦争を見るときは、こう問う必要があります。
- 誰が攻撃対象になっているのか?
- 民間人は区別されているのか?
- 病院や学校は守られているのか?
- 避難の機会はあるのか?
- 人道支援は届いているのか?
戦争を読むとは、戦況を見ることだけではありません。
誰が守られるべきだったのかを見ることです。
第7章 比例性と予防という考え方
区別の原則に加えて、比例性と予防も重要です。
比例性とは、軍事的な利益に比べて、予想される民間人への被害が過度であってはならないという考え方です。
ICRCは、比例性の原則が、予想される民間人への付随的被害が、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益に比べて過度にならないことを求めるものだと説明しています。(ICRC)
これは、民間人が少しでも巻き込まれたらすべて違法、という単純な話ではありません。
しかし、軍事目標があるからといって、どれだけ大きな民間被害でも許されるわけでもありません。
もう一つが予防です。
攻撃する側は、民間人への被害を避ける、または最小限にするために、実行可能な注意を払う必要があります。
たとえば、
- 攻撃対象を確認する
- 攻撃方法を選ぶ
- 時間帯を考える
- 警告できる場合は警告する
- 民間被害を減らす手段を取る
こうした考え方です。
戦争では、軍事的必要性が語られますが、
軍事的必要性だけで民間人の被害を無視することはできません。
戦争にも、人間を守るための限界があります。
第8章 戦争は国家だけでなく、市民の生活を壊す
戦争を地図で見ると、戦線が見えます。
- どの都市を取ったか
- どの地域を失ったか
- どの軍が前進したか
- どの国が優勢か
しかし、地図だけでは見えないものがあります。
そこに住む人の生活です。
戦争が起きると、市民の生活は大きく壊れます。
- 家を失う
- 家族を失う
- 学校に行けなくなる
- 病院が機能しなくなる
- 水や食料が不足する
- 電気や通信が止まる
- 避難を強いられる
- 難民になる
- 心に傷を負う
戦争は、戦場だけで終わりません。
- 物価
- 食料
- エネルギー
- 難民
- 医療
- 教育
- 地域社会
- 世代を超えたトラウマ
こうした形で、長く残ります。
戦争を読むときは、国家の論理だけで終わってはいけません。
「国家は何を守ろうとしているのか?」
「軍は何を狙っているのか?」
「国際法上どう評価されるのか?」
それに加えて、
「その中で、誰の生活が壊れているのか?」
ここまで見る必要があります。
第9章 戦争を見るときの5つの問い

戦争に関するニュースを見るときは、次の問いを持つと整理しやすくなります。
- 誰が、何を目的に武力を使っているのか?
- 侵略なのか、自衛なのか、別の性質の武力紛争なのか?
- どの国際法上のルールが関係しているのか?
- 民間人、捕虜、負傷者は守られているのか?
- その戦争で、誰の生活が壊れているのか?
たとえば、ある国が軍事行動を始めたとします。
そのとき、まず見るべきは目的です。
- 領土を奪おうとしているのか?
- 攻撃を受けたために防衛しているのか?
- 政権を維持しようとしているのか?
- 国内向けの政治的演出なのか?
- 資源や交通路が関係しているのか?
次に、国際法上の位置づけを見ます。
- 武力行使の禁止に反していないか?
- 自衛権の主張は成り立つのか?
- 民間人は区別されているのか?
- 比例性は守られているのか?
- 人道支援は妨げられていないか?
そして最後に、市民を見ます。
- 誰が避難しているのか?
- 誰が攻撃を受けているのか?
- 誰が声を上げられないのか?
- 誰が戦争の後も傷を抱えるのか?
この問いを持つと、戦争を「勝敗」だけで見なくなります。
まとめ 戦争とは、政治的な目的のために暴力が組織化されること
戦争とは、国家や武装組織が、政治的な目的のために組織的な暴力を使う現象です。
- 領土
- 体制
- 資源
- 安全保障
- 勢力圏
- 国内政治
戦争の背景には、さまざまな要因があります。
しかし、背景があることと、暴力を正当化することは違います。
特に、他国の主権や領土保全を武力で侵す侵略は、国際秩序にとって重大な問題です。
一方で、国際法には自衛権もあります。
武力攻撃を受けた国家が、自分を守る権利です。
戦争を見るときは、単に「どちらも悪い」「どちらかだけが悪い」と急いで決めるのではなく、何が起きているのかを分ける必要があります。
- 侵略なのか?
- 自衛なのか?
- 武力紛争の性質は何か?
- どの国際法が関係しているのか?
そして、戦争が始まっても、何をしてもよいわけではありません。
戦争にもルールがあります。
- 民間人と戦闘員を区別する
- 民間人を攻撃対象にしない
- 民間被害が過度にならないようにする
- 実行可能な予防措置を取る
- 捕虜や負傷者を保護する
これは、戦争を認めるためのルールではありません。
戦争の被害を少しでも制限し、人間を完全に消さないための最低限の線引きです。
戦争を読むとは、地図の上で戦線を見ることだけではありません。
その地図の上で暮らしている人を見ることです。
「誰が決めたのか?」
「誰が戦っているのか?」
「誰が逃げているのか?」
「誰が傷ついているのか?」
「誰が責任を問われるべきなのか?
世界を読むためには、戦争を避けて通れません。
しかし、戦争を学ぶ目的は、戦争に慣れることではありません。
争いを増やさないために、暴力の構造を理解することだと思うのです。
次回は、「核抑止とは何か」を扱います。
戦争は、国家が政治的目的のために暴力を使う現象でした。
しかし、核兵器の登場によって、戦争の意味は大きく変わりました。
核兵器は、使えば破滅的な被害をもたらします。
だからこそ、核抑止は「使うための兵器」ではなく、「使わせないための脅し」として語られます。
次回は、核抑止とは何か。
なぜそれが平和を守る仕組みとされるのか。
そして、なぜ同時に非常に危うい仕組みなのかを見ていきます。
シリーズの前後の記事はこちらです。
- 前回:【第5回】同盟とは何か|NATOを例に集団防衛と抑止の仕組みをわかりやすく解説
- シリーズ一覧:【まとめ】世界を読む基礎講座|国際情勢を構造で理解するための入門ガイド
- 次回:【第7回】核抑止とは何か|核兵器が戦争を防ぐとされる仕組みと危うさをわかりやすく解説
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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