日本神話と聞くと、どんな物語を思い浮かべるでしょうか?
- イザナギとイザナミの国生み
- アマテラスの天岩戸
- スサノオの八岐大蛇退治
- 大国主の国づくりと国譲り
- 天孫降臨
- 神武天皇
日本神話には、印象的な物語がたくさんあります。
神々が生まれ、国が生まれ、太陽神が隠れ、英雄が怪物を倒し、天上の神の子孫が地上へ降りる。
物語として読んでも、とても面白いものです。
ですが、日本神話を「神々が出てくる昔話」として読むだけでは、少しもったいないかもしれません。
なぜなら、日本神話は、古代日本が自分たちの国の起源、神々の系譜、天皇の正統性、中央と地方の関係を語るために整理した物語でもあるからです。
特に『古事記』と『日本書紀』は、単に古い伝説を集めた本ではありません。
そこには、古代日本が中央集権的な国家として、自分自身をどう説明するかという大きな課題がありました。
この記事では、日本神話の幹をたどりながら、なぜ『古事記』と『日本書紀』が作られたのか、そこから当時の日本社会の何が見えてくるのかを考えていきます。
日本神話の幹は何か
日本神話には多くの神々や物語が登場しますが、この記事では日本神話の大きな流れを整理してみます。
最初に、世界の始まりがあります。
天地が分かれ、神々が現れます。
次に、イザナギとイザナミによる国生みがあります。
日本列島が神話の中で生まれていきます。
その後、神生みが続きます。
海、山、風、火、自然や生活に関わるさまざまな神々が生まれていきます。
そして、高天原と地上の物語が展開されます。
- アマテラス
- スサノオ
- 天岩戸
- 八岐大蛇
- 大国主
こうした神々の物語を経て、やがて国譲り、天孫降臨、神武天皇へとつながっていきます。
つまり日本神話は、単に神々のエピソードが並んでいるだけではありません。
- 世界の始まり
- 日本列島の誕生
- 自然や生活世界の神々
- 高天原と地上の関係
- 地上の支配権
- 天皇の由来
それらが、大きな流れとしてつながっています。
日本神話は、世界の始まりから、日本列島の誕生、神々の系譜、天皇の由来へとつながる大きな物語なのです。
古事記と日本書紀は、いつ作られたのか

日本神話を考えるうえで欠かせないのが、『古事記』と『日本書紀』です。
『古事記』は712年に成立しました。
太安万侶が編纂し、稗田阿礼が伝えた内容をもとにしたとされています。
内容は、神代から推古天皇までです。
一方、『日本書紀』は720年に完成しました。
舎人親王らによって編纂された、日本最古の官撰史書です。
こちらは、神代から持統天皇までを扱っています。
『古事記』と『日本書紀』は、どちらも日本神話を伝える重要な書物です。
ただし、ここで大切なのは、そこに書かれた神話が8世紀に突然ゼロから作られたわけではないということです。
それ以前から、各地には神話や伝承がありました。
有力氏族には、それぞれの祖先や由来を語る物語がありました。
祭祀の場で語られてきた物語もあったはずです。
『古事記』と『日本書紀』は、そうした伝承や系譜を、天皇を中心とする国家の物語として整理したものだと考えるとわかりやすいと思います。
つまり、神話を突然作ったというより、すでに語られていた神話や伝承を、国家の枠組みの中で編み直した。
ここが重要です。
では、なぜ『古事記』は推古天皇までで、『日本書紀』は持統天皇までなのでしょうか?
その先の歴史がなかったわけではありません。
『日本書紀』の後には、『続日本紀』などの歴史書が作られていきます。
『日本書紀』は日本の公式な歴史書の終わりではなく、むしろ始まりでした。
『古事記』は、古い時代や王統の由来を語る性格が強い書物です。
そのため、神代から推古天皇までを扱うことで、王統の古い由来をまとめる役割を果たしていたと考えられます。
一方で『日本書紀』は、国家の正史としての性格が強い書物です。
持統天皇までを描くことで、天武天皇・持統天皇の時代に整えられていく国家づくりを、ひとつの到達点として示したと見ることもできます。
つまり、『古事記』と『日本書紀』は、ただ同じ神話を重複して語った本ではありません。
- 古事記:古い王統の由来を語る書物
- 日本書紀:国家としての正史を示す書物
それぞれに、少し違う役割があったのです。
なぜこの時代に編纂されたのか
では、なぜ7世紀後半から8世紀初めにかけて、『古事記』や『日本書紀』のような歴史書が必要になったのでしょうか?
背景には、古代日本が中央集権的な国家を作ろうとしていた流れがあります。
特に重要なのが、672年の壬申の乱です。
壬申の乱は、天智天皇の後継をめぐる大きな内乱でした。
この争いに勝利した大海人皇子が、のちの天武天皇となります。
内乱に勝つことは、政治的には大きな力になります。
しかし、国家を長く安定させるためには、武力だけでは足りません。
必要なのは、正統性です。
- なぜこの王統が正統なのか
- なぜ天皇を中心とする秩序が正しいのか
- なぜ各地の氏族や地方は、この中央の秩序に組み込まれるのか
そうした問いに答える必要がありました。
天武天皇の時代以降、律令国家としての体制づくりが進んでいきます。
- 中央が地方を統治する
- 官僚制を整える
- 戸籍や税制を整える
- 法と制度によって国家を運営する
そうした仕組みを作るには、制度だけではなく、物語も必要でした。
「私たちはどこから来たのか」
「この国はどのように始まったのか」
「天皇とは何者なのか」
これらを説明する物語が必要だったのです。
また、各地には、それぞれの神話や伝承がありました。
有力氏族にも、自分たちの祖先を語る物語がありました。
それらがばらばらのままでは、国家全体の統一的な物語にはなりにくい。
そこで、各地の伝承や氏族の系譜を、天皇を中心とする物語へ整理していく必要がありました。
さらに、当時の日本は、中国や朝鮮半島との関係の中にありました。
東アジア世界では、国家には歴史があり、正史がある。
国家としての由来を語ることは、対外的にも重要でした。
『日本書紀』が漢文で書かれ、中国の史書の形式を意識していることも、その文脈で見ると理解しやすくなります。
古事記と日本書紀が作られた背景には、古代日本が天皇を中心とする国家として、自分自身の起源と正統性を語る必要があったことがあります。
なぜ古事記と日本書紀の2つがあるのか
では、なぜ似たような神話を含む書物が、2つも作られたのでしょうか?
『古事記』と『日本書紀』は、どちらも日本神話を伝える重要な書物です。
しかし、その性格は同じではありません。
『古事記』は、物語性が強い書物です。
神々の物語、歌謡、人物の印象的なエピソードが多く、語りとしての魅力があります。
日本語的な語りを、漢字を使って表そうとしている点も特徴です。
一方で『日本書紀』は、国家の正史としての性格が強い書物です。
漢文で書かれ、編年体で歴史が整理されています。
中国の史書の形式を意識しており、国家としての歴史を示す書物としての性格が強い。
かなりざっくり言えば、『古事記』は物語としての色が強く、『日本書紀』は国家の正史としての色が強いのです。
もちろん、「古事記は完全に国内向け」「日本書紀は完全に国外向け」と単純に分けることはできません。
ただ、古代日本にとって、内側に向けて王統の由来を語る物語と、国家として整った歴史を示す正史の両方が必要だったと考えると、2つの書物が作られた意味が見えてきます。
- 同じ神話を持ちながらも、語り方が違う
- 目的も少し違う
- 読ませたい相手も違う
『古事記』と『日本書紀』は、同じものをただ重複して作ったのではありません。
古代日本が、自分たちの起源と正統性を複数の形で語ろうとした結果として見ることができるのです。
日本神話は、国の起源をどう語ったのか
ここからは、日本神話の中身を見ていきます。
まず重要なのが、国生みの物語です。
- イザナギとイザナミが、日本列島を生む
- 淡路島、四国、隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、本州
- 神々の営みによって、国土が生まれていく
これは、単なる地理の説明ではありません。
日本列島そのものに、神話的な由来を与える物語です。
- 私たちが住む土地は、ただ偶然そこにある土地ではない
- 神々の物語の中で生まれた場所である
そう語ることで、国土に特別な意味が与えられます。
さらに、国生みのあとには神生みが続きます。
- 海の神
- 山の神
- 風の神
- 木の神
- 火の神
自然や生活世界に関わる神々が次々と生まれていきます。
これは、日本列島という場所だけでなく、その中で人々が出会う自然や生活の力も、神話の中に位置づけていくものです。
- 海がある
- 山がある
- 風が吹く
- 火がある
- 作物が育つ
- 災害が起きる
人間の暮らしを支えるものも、脅かすものも、神々の世界とつながっている。
そうした感覚が、日本神話には表れています。
国生みの神話は、日本列島そのものに神話的な由来を与える物語でした。
日本神話は、天皇の正統性をどう語ったのか
日本神話のもうひとつの大きな幹は、天皇の正統性です。
ここで重要になるのが、アマテラスから天孫降臨、そして神武天皇へとつながる流れです。
アマテラスは、太陽の神であり、高天原の中心的な神として語られます。
その子孫であるニニギが、地上へ降りる。
これが天孫降臨です。
天上の神の子孫が地上に降り、地上を治める。
この物語によって、地上の支配には神話的な由来が与えられます。
さらに、その流れは神武天皇へとつながっていきます。
ここで、神話の世界と天皇の系譜が接続されます。
つまり、天皇は単なる人間の支配者としてではなく、神々の系譜につながる存在として語られるのです。
これは、王権の正統性を支えるうえで非常に重要です。
- なぜこの家系が治めるのか
- なぜ天皇を中心とする秩序が正しいのか
その問いに対して、日本神話は「天上の神々に由来するから」という物語を用意しました。
もちろん、記紀以前に、王統や氏族の祖先を神々につなげるような伝承がまったく存在しなかったわけではありません。
各地の氏族にも、自分たちの祖先や由来を語る物語がありました。
王権にも、神々や祭祀と結びつく伝承があったと考える方が自然です。
ただし、それらが最初から『古事記』や『日本書紀』に見られるような形で、体系的に整理されていたわけではありません。
古代国家が形成される中で、各地の神話や氏族の伝承が、天皇を中心とする国家の物語として再編成されていった。
そう見ると、日本神話の意味がわかりやすくなります。
天孫降臨の物語は、天皇の系譜を神々につなげることで、王権の正統性を語る役割を持っていました。
国譲りは、中央と地方の関係をどう語っているのか
日本神話の中でも、特に興味深いのが国譲りの物語です。
大国主は、地上世界を治め、国づくりを行った神として語られます。
しかし最終的に、その国は高天原の神々へ譲られることになります。
この物語は、単に神々のあいだの交渉として読むこともできます。
ですが、構造として見ると、中央と地方の関係が見えてきます。
- 地上を治めていた神がいる
- その神が築いた国がある
- しかし最終的には、高天原の神々の系譜へと国が譲られる
これは、地方の神々や在地の秩序を、天皇を中心とする中央の物語へ組み込む話として読むこともできます。
もちろん、神話をそのまま政治史として読むのは危ういです。
大国主の物語が、そのまま実際の政治的な出来事を表していると断定することはできません。
ですが、神話を通じて、古代国家が地方の神々や有力勢力をどう位置づけようとしたのかを考える手がかりにはなります。
古代国家は、ただ武力や制度だけで地方を統合したわけではありません。
物語によっても、地方を中央の秩序の中に組み込んでいった。
そう見ると、国譲りはとても重要な物語です。
大国主の存在を完全に消すのではなく、国づくりの神として認める。
そのうえで、最終的な支配権は高天原の系譜へ移る。
これは、地方の神々を排除するというより、中央の物語の中に位置づける仕組みだったのかもしれません。
国譲りの物語には、地方の神々や在地の秩序を、中央の物語へ組み込もうとする古代国家の視点が見えてきます。
八岐大蛇や黄泉の国から、何が見えるのか

日本神話は、国家の正統性を語るだけではありません。
物語としても、とても面白いものです。
たとえば、八岐大蛇の物語があります。
スサノオが巨大な蛇である八岐大蛇を退治し、クシナダヒメを救う。
そして、八岐大蛇の尾から草薙剣が出てくる。
これは、怪物退治の物語として読むことができます。
ですが、そこで終わるのは少しもったいないです。
八岐大蛇は、荒ぶる自然や水害、共同体を脅かす力の象徴として読むこともできます。
- 巨大な蛇
- 川や水を思わせる存在
- 毎年娘を奪っていく脅威
- そこに立ち向かう英雄
- 知恵と酒によって怪物を倒す
- そして、剣という権威の象徴が現れる
この物語には、自然への畏れ、共同体を守る英雄、秩序の回復、権威の象徴といった要素が重なっています。
また、イザナギが亡くなったイザナミを追って黄泉の国へ行く物語もあります。
- 愛する相手を取り戻そうとして、死者の世界へ向かう
- しかし、完全には取り戻せない
- 生者と死者の世界は分かたれる
- 黄泉の国から戻ったイザナギは、禊によって穢れを清める
ここには、死への恐れ、生者と死者の境界、穢れ、清めの感覚が表れています。
こうした物語は、日本だけにあるわけではありません。
世界各地の神話にも、似たようなモチーフがあります。
- 死者の国へ向かう物語
- 巨大な蛇や竜を退治する物語
- 太陽が隠れ、世界が暗くなり、再び光が戻る物語
- 世界や国土の始まりを語る物語
たとえば、ギリシャ神話にも冥界へ向かう物語があります。
世界の多くの神話には、蛇や竜のような怪物を倒す話があります。
太陽が失われ、世界が暗くなるというモチーフも、各地の神話に見られます。
もちろん、似ているからといって、すべてが直接影響を受けたとは限りません。
人間が共通して抱いてきた恐れや願いから、似た物語が生まれた可能性もあります。
- 死への恐れ
- 自然災害への不安
- 共同体を脅かす力への警戒
- 秩序が壊れることへの恐れ
- 再生や回復への願い
神話には、そうした人間に共通する感覚が表れています。
日本神話も、日本だけに閉じた特殊な物語ではありません。
そこには、日本列島の自然や古代国家の事情が表れている一方で、人類共通の恐れや願いも映し出されているのです。
神話は、怪物退治や死者の国の物語として楽しめます。
しかし、それだけではありません。
その社会が何を恐れ、何を清め、どんな秩序を守ろうとしたのかを映し出すものでもあるのです。
神話は、本当か嘘かだけで見ない方がいい
神話を読むとき、現代の私たちはつい、こう考えがちです。
- これは本当にあったのか
- 神は実在したのか
- 神武天皇は実在したのか
- 国譲りは実際の政治事件なのか
もちろん、歴史研究としては重要な問いです。
神話をそのまま実証的な歴史として読むことはできません。
神話と歴史は、慎重に分けて考える必要があります。
ですが、神話を「本当か嘘か」だけで見ると、そこにある意味を見落としてしまいます。
神話には、その社会が何を正統なものとして語ろうとしたのかが表れます。
- 何を神聖だと考えたのか
- 何を恐れたのか
- どんな秩序を大切にしたのか
- 誰を中心に据えようとしたのか
- 地方と中央の関係をどう説明しようとしたのか
そうしたものが、神話の中に折り込まれています。
日本神話の場合、それは特に明確です。
- 国生みは、日本列島の由来
- 天孫降臨は、天皇の正統性
- 国譲りは、地方の神々を中央の物語
- 八岐大蛇や黄泉の国は、自然や死への恐れ、秩序回復や清めの感覚
神話は、事実かどうかだけで読むものではありません。
その社会が、自分たちの起源と正統性をどのように語ろうとしたのかを見るための窓なのです。
その意味で、日本神話は古代日本の自己紹介のようなものだったのかもしれません。
まとめ:日本神話は、国の起源と正統性を語る物語だった
日本神話は、ただの古い物語ではありません。
古代日本が、自分たちの国の起源、神々の系譜、天皇の正統性、地方と中央の関係を説明するために整理した物語でした。
イザナギとイザナミの国生みは、日本列島そのものに神話的な由来を与えました。
アマテラスから天孫降臨、神武天皇へと続く流れは、天皇の系譜を神々につなげました。
大国主の国譲りは、地上の国や地方の神々を、中央の物語に組み込む役割を持っていたようにも見えます。
八岐大蛇や黄泉の国の物語には、自然への恐れ、死への恐れ、穢れと清め、秩序回復の感覚が表れています。
もちろん、神話をそのまま史実として読むことはできません。
ですが、神話を「本当か嘘か」だけで見ると、そこにある意味を見落としてしまいます。
『古事記』と『日本書紀』は、神話や伝承を国家の物語として整理した書物でした。
そこには、古代日本が中央集権国家として、自分たちの起源と正統性を語ろうとした時代背景があります。
日本神話を読むことは、神々の不思議な物語を読むことだけではありません。
古代日本が、自分たちの国をどう説明し、何を正統なものとして語ろうとしたのかを知ることでもあります。
そしてその先には、もうひとつの大きな問いがあります。
その物語の中心に置かれた天皇は、日本の歴史の中でどのように立場を変えていったのでしょうか?
日本神話を読むことは、古代日本の始まりを知ることです。
そして同時に、日本という国が、権威や正統性をどのように語ってきたのかを考える入口でもあるのです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
さらに考えたい方へ:おすすめの本
この記事では、なぜ『古事記』と『日本書紀』が作られたのかを考えました。
日本神話は、ただの昔話ではありません。
国生み、神生み、天孫降臨、国譲り、八岐大蛇、黄泉の国。
これらの物語には、日本列島の起源、神々の系譜、天皇の正統性、中央と地方の関係、自然への畏れ、死と清めの感覚が表れています。
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