この記事は「世界を読む基礎講座」の第10回です。
前回は「【第9回】エネルギー安全保障とは何か|石油・天然ガス・電力が国際情勢を動かす理由をわかりやすく解説」で、エネルギーが生活・経済・外交・安全保障にどう関わるのかを整理しました。
今回は、現代の国際情勢で人の判断や信頼に影響を与える「情報戦」について見ていきます。
- シリーズ全体はこちら:【まとめ】世界を読む基礎講座|国際情勢を構造で理解するための入門ガイド
ニュースを見ていて、こう感じることはありませんか?
「何が本当かわからない。」
「同じ出来事なのに、説明がまったく違う。」
「SNSでは怒りや不安が一気に広がる。」
「映像や画像を見ても、本物かどうか判断しにくい。」
「『みんながそう言っている』ように見えるが、本当にそうなのかはわからない。」
現代の国際情勢では、戦車やミサイルだけが使われるわけではありません。
情報も使われます。
- 人々が何を信じるか?
- 何を怖がるか?
- 誰を憎むか?
- 政府を信頼するか?
- 同盟国を信じるか?
- 選挙や政策をどう判断するか?
こうした部分に影響を与えようとする動きがあります。
これが、情報戦です。
情報戦とは、情報を使って相手の判断や世論、意思決定に影響を与える戦いです。
ただし、情報戦は「全部ウソ」という単純な話ではありません。
- 本当の情報を一部だけ切り取る
- 感情を刺激する順番で並べる
- 不安を増幅する
- 敵味方を単純化する
- 架空の多数派を作る
- 本物に似た偽物を混ぜる
- 人々を疲れさせ、考える力を奪う
こうした形で、私たちの認識は揺さぶられます。
今回は、「情報戦とは何か」を見ていきます。
「偽情報とは何か?」
「プロパガンダとは何か?」
「認知戦とは何か?」
「サイバー攻撃とはどう関係するのか?」
「そして、私たちは情報にどう向き合えばよいのか?」
世界を読む基礎講座の最後として、情報を見る力を整理していきましょう。
第1章 情報戦とは、判断をめぐる戦いである
情報戦とは、情報を使って相手の判断に影響を与える戦いです。
- 軍の判断
- 政府の判断
- 国民の判断
- 同盟国の判断
- 企業の判断
- 国際社会の判断
これらを動かそうとします。
たとえば、戦争中ならこうです。
- 相手国の市民に不安を広げる
- 兵士の士気を下げる
- 政府への不信を高める
- 味方の正当性を強調する
- 相手の被害を隠す
- 自国の失敗を小さく見せる
- 第三国の世論を味方につける
情報戦の目的は、必ずしも相手に「完全なウソ」を信じ込ませることではありません。
むしろ、こういった状態を作ることがあります。
「何が本当かわからない。」
「誰も信用できない。」
「相手は危険だ。」
「自分たちは被害者だ。」
「もう考えるのが面倒だ。」
人は、情報が多すぎると疲れます。
不安が強いと、単純な説明に引っ張られやすくなります。
怒りがあると、確認する前に共有したくなります。
情報戦は、こうした人の弱点を突いてきます。
情報戦とは、情報の量を増やす戦いではありません。
相手の判断の土台を揺らす戦いなのです。
第2章 偽情報・誤情報・悪意ある情報は同じではない

情報戦を読むとき、まず言葉を分ける必要があります。
よく出てくるのが、誤情報、偽情報、悪意ある情報です。
誤情報
→ 間違っているが、悪意なく広がる情報
偽情報
→ 人を欺く目的で作られたり広げられたりする情報
悪意ある情報
→ 事実を含むが、文脈を歪めたり害を与える目的で使われる情報
CISAや関連する選挙セキュリティ資料では、誤情報は不正確だが害を与える意図がないもの、偽情報は人や組織、国を欺くために意図的に作られるもの、悪意ある情報は事実に基づく情報を害を与える形で使うものとして整理されています。(CISA)
たとえば、災害時に古い画像を「今の被害」として誰かが勘違いで投稿した場合、それは誤情報かもしれません。
一方、特定の国や集団への憎悪を広げるために、古い画像をわざと別の出来事として流すなら、偽情報です。
さらに、実際に起きた事件の一部だけを切り取り、「だからこの民族は危険だ」という形で広げれば、事実を含んでいても悪意ある情報になりえます。
ここで大切なのは、情報の真偽だけではありません。
- 意図
- 文脈
- 切り取り方
- 拡散のされ方
- 誰に向けられているのか
ここまで見る必要があります。
情報戦では、完全なウソより、事実を混ぜた操作の方が強いことがあります。
人間は少し真実を混ぜただけで信じやすくなるのです。
第3章 プロパガンダとは何か
プロパガンダとは、特定の考え方や行動へ人々を導くために、情報を意図的に使うことです。
プロパガンダは、戦争中だけのものではなく、平時にも使われます。
- 国家
- 政党
- 軍
- 企業
- 過激派組織
- 外国の影響工作
- 国内の政治勢力
さまざまな主体が使う可能性があります。
プロパガンダの特徴は、情報を中立に伝えることではありません。
相手に、ある見方をして欲しいといった目的があります。
よくある形は、次のようなものです。
- 自分たちは正義だと見せる
- 相手を非人間的に描く
- 被害を強調する
- 失敗を隠す
- 都合のよい歴史だけを見せる
- 恐怖や怒りを刺激する
- 反対意見を裏切り者扱いする
プロパガンダは、必ずしもすべてがウソとは限りません。
本当の出来事を使うこともあります。
ただし、その見せ方に目的があります。
- 何を見せるのか?
- 何を見せないのか?
- どの順番で見せるのか?
- どの感情を引き出そうとしているのか?
ここを見ると、情報の意図が見えやすくなるのです。
第4章 認知戦とは、人の考え方そのものを狙うこと

最近は、「認知戦」という言葉も使われます。
情報戦が「情報の流れ」を重視するなら、認知戦はさらに一歩進んで、人がどう認識し、どう判断し、どう行動するかに焦点を当てる考え方です。
NATO関連の研究文書では、認知戦は情報環境で行われる作戦とは区別され、人間の認識や意思決定そのものに関わる領域として議論されています。(NATO)
つまり、認知戦で狙われるのは、単に「何を知っているか」ではありません。
- どう考えるか?
- 何を疑うか?
- 何を信じるか?
- 誰を敵と見るか?
- どの情報を無視するか?
- どんな行動を取るか?
認知戦の怖さは、人が「自分で考えた」と感じるところにあります。
外から操作されたと気づかないまま、怒り、不信、恐怖、諦めが強くなる。
社会全体で見ると、こうした影響が出る可能性があります。
- 政府への信頼が下が
- メディアへの信頼が下が
- 専門家への不信が広が
- 同盟国への疑念が広が
- 社会の分断が深ま
- 選挙や政策判断に影響する
認知戦は、ミサイルのように目に見えません。
しかし、人々の判断が揺らげば、国家の意思決定にも影響します。
だからこそ現代の国際情勢では、情報と認知が安全保障の問題になるのです。
第5章 SNSは、情報戦の拡声器になる
SNSは便利です。
- 現地の声が届く
- メディアが報じない情報も見える
- 災害時には助け合いにも使える
- 政府や企業の発表をすぐ確認で切る
しかし、SNSは情報戦の拡声器にもなります。
理由は、感情が広がりやすいからです。
- 怒り
- 恐怖
- 不安
- 憎しみ
- 正義感
- 仲間意識
こうした感情、特にネガティブな感情を刺激する情報は、拡散されやすくなります。
しかも、SNSでは情報が断片で流れます。
- 短い文章
- 切り取られた動画
- 一枚の画像
- 強い見出し
- 匿名アカウントの投稿
- 誰かの怒りの反応
この断片だけで判断すると、文脈が抜け落ちます。
EUは、FIMIについて、単なる偽情報だけでなく、情報環境を操作するためのさまざまな戦術を含むものとして説明しています。
つまり、問題は「ウソの投稿」だけではなく、拡散、なりすまし、文脈操作、組織的な影響工作まで含まれることなのです。(欧州連合の外交サービス)
※FIMI(Foreign Information Manipulation and Interference):外国による情報操作と干渉のこと。
SNSで大切なのは、すぐに信じないことです。
そして、すぐに拡散しないことです。
自分が怒っているときほど、一度止まる。
それだけでも、情報戦に巻き込まれにくくなるのです。
第6章 サイバー攻撃と情報戦はつながっている
情報戦は、投稿やニュースだけで行われるわけではありません。
サイバー攻撃ともつながります。
たとえば、次のような形です。
- 機密情報を盗む
- 盗んだ情報を都合よく公開する
- 一部を改ざんして混ぜる
- 政府や企業のサイトを止める
- メディアや通信を妨害する
- SNSアカウントを乗っ取る
- 偽のサイトを作る
サイバー攻撃で情報を盗み、その情報を使って世論を揺さぶる。
システムを停止させて、政府への不信を高める。
偽サイトやなりすましで、公式発表のように見せる。
こうした形で、サイバーと情報戦は重なります。
ここで大切なのは、サイバー攻撃を単なる技術問題として見ないことです。
狙いは、情報を盗むことだけではない場合があります。
- 信頼を壊すこと
- 混乱を広げること
- 相手の意思決定を遅らせること
- 国民に「政府は守れない」と思わせること
こうした目的がありえます。
情報戦では、技術と心理がつながるのです。
第7章 情報戦は、民主主義と信頼を狙う
情報戦が特に影響を与えやすいのが、民主主義社会です。
民主主義では、人々の判断が政治を動かします。
- 選挙
- 世論
- 政策への支持
- メディアへの信頼
- 専門家への信頼
- 政府への信頼
これらが重要です。
だからこそ、情報戦では信頼が狙われます。
「選挙は不正だ!」
「政府は全部隠している!」
「専門家は買収されている!」
「メディアは全部ウソだ!」
「外国の支援は無駄だ!」
「同盟国は信用できない!」
もちろん、政府やメディアや専門家を批判してはいけない、という意味ではありません。
批判は民主主義に必要です。
しかし、根拠のない不信だけが広がると、社会は判断できなくなります。
国連事務総長は、デジタル空間における誤情報・偽情報・ヘイトスピーチが偏見や暴力を助長し、公共の議論を傷つける問題として、情報の健全性の重要性を訴えています。(国連)
情報戦の目的は、必ずしも「自分たちを好きにさせること」ではありません。
相手社会を疑心暗鬼にすることでも十分な場合があります。
「何も信じられないよ。」
「誰も信用できないよ。」
「合意が作れないよ。」
「危機に対応できないよ。」
こうなると、社会は弱くなります。
情報戦は、信頼を壊す戦いでもあるのです。
第8章 情報戦を見るときの5つの問い

情報戦に関するニュースを見るときは、次の問いを持つと整理しやすくなります。
- 誰がこの情報を出しているのか?
- 誰に、何を信じさせたいのか?
- どの感情を刺激しているのか?
- 何が省かれ、何が強調されているのか?
- この情報で、誰の判断や行動が変わるのか?
たとえば、SNSで衝撃的な動画が流れてきたとします。
そのとき、すぐに信じる前に考えます。
「いつの映像なのか?」
「どこで撮られたものなのか?」
「投稿者は誰なのか?」
「元の文脈はあるのか?」
「他の信頼できる報道でも確認されているのか?」
「怒りを誘導されていないか?」
ある国について、極端に単純化した説明が流れてきた場合も同じです。
「その国の政府と国民を分けているか?」
「軍と市民を分けているか?」
「過去の出来事を一部だけ切り取っていないか?」
「相手を非人間的に描いていないか?」
「暴力を正当化する方向へ誘導していないか?」
情報戦を見るときは、情報の内容だけでは足りません。
流れ方を見る必要があります。
- 誰が出したのか?
- 誰が広げているのか?
- どんな感情を生んでいるのか?
- どんな行動へ向かわせているのか?
そこを見ると、情報の構造が見えてきやすいのです。
第9章 私たちはどう情報に向き合えばよいのか
情報戦は、国家や軍だけの話ではありません。
私たち一人ひとりにも関係します。
なぜなら、私たちが情報を受け取り、信じ、共有するからです。
もちろん、すべての情報を専門家のように検証することはできません。
それでも、できることはあります。
- すぐに拡散しない
- 見出しだけで判断しない
- 日付と出典を見る
- 画像や動画の文脈を確認する
- 複数の信頼できる情報源を見る
- 感情が強く動いたときほど一度止まる
特に大切なのは、感情です。
- 怒ったとき
- 怖くなったとき
- 誰かを許せないと思ったとき
- 「これはみんなに知らせなければ」と思ったとき
その思った時ほど、一度止まるのです。
情報戦は、私たちの正義感も利用します。
善意で拡散した情報が、結果として誤情報の拡散に加担することもあります。
「疑う力」、「止まる力」そして「確認する力」を養うことが大事なのです。
まとめ 情報戦とは、人の判断をめぐる戦いである
情報戦とは、情報を使って相手の判断、世論、信頼、意思決定に影響を与える戦いです。
それは、単なるウソの拡散ではありません。
- 事実の切り取り
- 文脈の操作
- 感情の刺激
- 偽情報の拡散
- プロパガンダ
- 認知戦
- サイバー攻撃
- SNSでの増幅
こうしたものが重なって、人々の見方を変えようとします。
現代の国際情勢では、情報は武器になります。
相手の軍を直接攻撃しなくても、社会の信頼を壊せば、国は弱くなります。
- 政府への不信
- メディアへの不信
- 専門家への不信
- 同盟国への不信
- 市民同士の対立
これらが深まれば、危機に対応する力は落ちます。
だからこそ情報戦は、安全保障の問題です。
しかし、ここで大切なのは、何も信じないことではありません。
それでは、情報戦に負けています。
必要なのは、構造で見ることです。
- 誰が出した情報なのか?
- 何を信じさせたいのか?
- どの感情を刺激しているのか?
- 何が省かれているのか?
- 誰の判断を変えようとしているのか?
この問いを持つだけで、情報との距離が少し変わります。
情報戦を知ることは、疑心暗鬼になるためではなく、自分の判断を取り戻すためです。
そうすることで、世界の見え方が少しづつ変わってきます。
情報を見る力は、世界を読む力です。
そして、世界を読む力は、世界を平和にするため、そして自分が平和でいられるための知恵でもあるのです。
今回で、「世界を読む基礎講座」は一つの区切りです。
ここまで、次のテーマを見てきました。
【第0回】世界を読むとはどういうことか|国際情勢を感情ではなく構造で見るために

【第1回】国家とは何か|主権・国境・国益から国際情勢の基本をわかりやすく解説

【第2回】地政学とは何か|地理・国家・安全保障から国際情勢をわかりやすく解説

【第3回】国際法とは何か|国際情勢を読むためのルールをわかりやすく解説

【第4回】国連とは何か|世界政府ではない国際機関の役割と限界をわかりやすく解説

【第5回】同盟とは何か|NATOを例に集団防衛と抑止の仕組みをわかりやすく解説

【第6回】戦争とは何か|侵略・自衛権・国際人道法から国際情勢をわかりやすく解説

【第7回】核抑止とは何か|核兵器が戦争を防ぐとされる仕組みと危うさをわかりやすく解説

【第8回】経済制裁とは何か|目的・種類・効果と市民生活への影響をわかりやすく解説

【第9回】エネルギー安全保障とは何か|石油・天然ガス・電力が国際情勢を動かす理由をわかりやすく解説

【第10回】情報戦とは何か
→今回
国際情勢は、善悪だけでも、力だけでも読めません。
- 国家を見る
- 地理を見る
- ルールを見る
- 国連を見る
- 同盟を見る
- 戦争を見る
- 核を見る
- 経済を見る
- エネルギーを見る
- 情報を見る
- そして最後に、市民を見る
「誰が決めているのか?」
「誰が利益を得るのか?」
「誰が傷つくのか?」
「日本や私たちの生活とどこでつながるのか?」
この問いを持つことが、世界を読む第一歩です。
次回以降は、この基礎を使って、実際の国際ニュースや地域情勢を読み解いていきます。
この記事は「世界を読む基礎講座」の最終回です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
Veritas Labでは、国際情勢・歴史・科学・心理学・サイバーセキュリティを横断しながら、複雑な世界の構造を読み解いています。
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