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なぜ北朝鮮はミサイルを撃ち続けるのか|核・制裁・サイバーから生存戦略を読み解く

北朝鮮のミサイル発射と日本周辺の安全保障を示す地図と分析資料 国際情勢

北朝鮮のミサイル発射のニュースを見るたびに、「またか」と思うことがあります。

  • Jアラート
  • 弾道ミサイル
  • 日本海
  • EEZ

何度も聞いた言葉だからこそ、どこかで感覚が麻痺しているところもあります。

「どうせまた海に落ちたんでしょ」
「今回も大きな被害はなかったんでしょ」
「いつものことだよね」

そう受け止めてしまうこともあります。

ですが、本当にそれでいいのでしょうか?

問題は、毎回どこに落ちたかだけではありません。

  • どのくらい飛んだのか
  • どの高度まで上がったのか
  • どんな燃料を使ったのか
  • 発射までの準備時間は短くなっているのか
  • 迎撃しにくくなっているのか
  • 本当に失敗だったのか
  • それとも、何かを試すための発射だったのか

そこを見ないと、北朝鮮の脅威がどう変わっているのかは見えません。

この記事は、北朝鮮の核・ミサイル開発を正当化するための記事ではありません。
拉致問題、サイバー攻撃、核・ミサイル開発は、日本にとっても、韓国にとっても、地域の安全保障にとっても、現実の問題です。

一方で、「怖い国」「変な国」「また海に落ちた」で終わらせてしまうと、北朝鮮が何を恐れ、何を狙い、どのように生き残ろうとしているのかは見えにくくなります。

北朝鮮を理解することと、北朝鮮を許すことは同じではありません。
ですが、理解しないまま怖がったり、逆に慣れて軽く見たりすると、どこに本当の脅威があるのかを見誤ってしまいます。

今回は、北朝鮮のミサイル発射を入口に、核、制裁、サイバー、国際関係、そして北朝鮮で暮らす人々のことまで、構造として整理してみたいと思います。

北朝鮮から見た「敵」は誰なのか

北朝鮮がなぜ核やミサイルにこだわるのかを考える前に、まず見ておきたいことがあります。

それは、北朝鮮が誰を敵と見ているのか、ということです。

もちろん、北朝鮮側の見方をそのまま受け入れる必要はありません。
ただ、相手がどのような物語で世界を見ているのかを知らないと、なぜその行動を続けるのかは見えにくくなります。

北朝鮮から見れば、アメリカは朝鮮戦争以来の最大の敵です。

朝鮮戦争は1953年に休戦協定で戦闘が止まっただけで、平和条約によって正式に終わったわけではありません。
その後も、韓国には在韓米軍が駐留し、米韓合同軍事演習が行われ、アメリカは韓国や日本に安全保障上の関与を続けています。

韓国やアメリカから見れば、それは北朝鮮の軍事行動や核開発に対する抑止です。
ですが、北朝鮮から見れば、自分たちの体制を倒すための圧力に見える。

ここに、見え方のズレがあります。

次は韓国です。

かつて北朝鮮は、少なくとも建前上は、南北統一を掲げていました。
実際には厳しい対立がありながらも、同じ民族、同じ朝鮮半島の一部として語る余地がありました。

しかし近年、北朝鮮は韓国を「統一の相手」ではなく、「敵対国家」として扱う方向を強めています。

これはかなり大きな変化です。

韓国を敵国として位置づけるほど、短距離ミサイル、戦術核、砲兵戦力など、朝鮮半島周辺で使われる兵器の意味は強くなります。

では、日本はどう見られているのでしょうか?

北朝鮮にとって、日本は主敵そのものというより、アメリカ側の軍事ネットワークの一部として見られている面が大きいと思います。

  • 日本による朝鮮半島の植民地支配の記憶
  • 在日米軍基地の存在
  • 日米韓の安全保障協力
  • 制裁やミサイル防衛

日本や韓国から見れば、それらは防衛のための協力です。
ですが北朝鮮から見れば、自分たちへの包囲網に見えています。

この見え方のズレを理解することはが、脅威を正しく見るために必要なことだと思うのです。

北朝鮮は本当に孤立しているのか

北朝鮮は孤立している国だと言われます。

たしかに、国際社会から厳しい制裁を受け、自由に貿易できる国ではありません。
外交的にも、経済的にも、かなり孤立しています。

ですが、完全に孤立しているわけではありません。

北朝鮮には、北朝鮮を支える国、あるいは北朝鮮を利用する国があります。
ここで大事なのは、「支持している国」と雑に一言でまとめないことです。

近年、北朝鮮にかなり明確に近づいているのがロシアです。

ロシアにとって北朝鮮は、単なる友好国ではありません。
ウクライナ戦争が長期化する中で、ロシアは西側諸国との対立を深めています。
その中で北朝鮮は、対西側のパートナーであり、軍事・外交上のカードになっています。

  • ロシアから見れば、北朝鮮は、西側制裁に対抗する仲間であり、東アジアで日米韓を揺さぶる存在でもある
  • 北朝鮮から見れば、ロシアは、食料、燃料、外貨、技術支援の可能性であり、国連制裁を弱める後ろ盾にもなりうる

つまり、ロシアが北朝鮮を一方的に助けているだけではありません。
北朝鮮もロシアを利用し、ロシアも北朝鮮を利用しています。

これは「友情」というよりは、相互利用に近い関係だと思います。

中国は、ロシアとは少し違います。

中国は北朝鮮の核・ミサイル開発を全面的に歓迎しているわけではありません。
北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返せば、地域は不安定になります。
日本、韓国、アメリカの安全保障協力も強まります。

それは中国にとっても望ましいことばかりではありません。

それでも中国は、北朝鮮の崩壊を望んでいないと想定されます。

なぜなら、中国から見ると、北朝鮮は米韓同盟とのあいだにある緩衝地帯だからです。
北朝鮮が崩壊し、韓国主導で朝鮮半島が統一され、米軍の影響が中国国境近くまで広がることを、中国は避けたいのです。

さらに、北朝鮮が急に不安定化すれば、難民流入、治安悪化、軍事的緊張など、中国側にも大きな負担が生じます。

そのため中国は、北朝鮮の核開発を心から歓迎しているというより、北朝鮮の崩壊や米国側への吸収を嫌がっているのです。

北朝鮮は、孤立しているが、孤立しながらも、完全には孤立しないように動いています。

  • ロシアとの関係
  • 中国との関係
  • 反米・反西側の国々との関係
  • 密輸や制裁逃れ
  • サイバー空間での外貨獲得

こうしたものを組み合わせながら、北朝鮮は自分たちの生存空間を残そうとしています。

核とミサイルは何のためにあるのか

北朝鮮がミサイルを発射し続ける理由を体制維持、交渉カード、威圧と抑止、国内向け権威づけから整理した図解
北朝鮮のミサイル発射には、体制維持、交渉カード、威圧と抑止、国内向け権威づけといった複数の意味があります。さらに、制裁逃れ、ロシア・中国との関係、サイバーによる外貨獲得もその背景にあります。

では、なぜ北朝鮮は核とミサイルを手放さないのでしょうか?

よく言われるのは、「体制を守るため」です。
これは間違っていないと思います。

ただ、それだけではないように思えます。

北朝鮮にとって、核とミサイルは単なる兵器ではありません。
体制を守るための保険であり、外交カードであり、国内向けの演出であり、アメリカ・韓国・日本への圧力でもあります。

まず、最も大きいのは、体制を倒されないための保険です。

北朝鮮は、通常戦力や経済力では、アメリカ、韓国、日本に対抗できません。
経済規模も、技術力も、国際的な信用も、圧倒的に不利です。

その中で核を持てば、相手にこう思わせることができます。

「攻撃すれば、大きな代償を払うことになる」

これが抑止です。

北朝鮮にとって核は、戦争を始めるためだけの道具ではありません。
むしろ、相手に攻め込ませないための道具でもあります。

ただし、北朝鮮にとっては保険でも、日本や韓国にとっては脅威です。
ここにも、見え方のズレがあります。

核とミサイルは、交渉カードにもなります。

北朝鮮が核もミサイルも持っていなければ、国際社会は北朝鮮を今ほど重視しなかったかもしれません。
ですが、核とミサイルを持つことで、北朝鮮は無視されにくい国になります。

  • 制裁解
  • 食料やエネルギー支援
  • 米韓軍事演習の縮小
  • 体制保証
  • 外交的承認

北朝鮮は、こうしたものを引き出すためのカードとして、核とミサイルを使おうとしていると考えられます。

さらに、北朝鮮の核・ミサイルは、アメリカと韓国・日本の同盟を揺さぶる道具にもなります。

北朝鮮が米国本土に届くICBMを持てば、アメリカはこう考えざるを得なくなります。

「ソウルや東京を守るために、ロサンゼルスやワシントンを危険にさらせるのか?」

韓国や日本からすれば、「いざという時、本当にアメリカは守ってくれるのか?」という不安が生まれます。
北朝鮮からすれば、その不安こそが狙いになりうるのです。

一方で、短距離・中距離ミサイルや戦術核は、韓国、日本、在日米軍基地を意識していると考えられます。

  • 米国本土を狙うICBM
  • 韓国や日本を射程に入れる短中距離ミサイル
  • 地域での軍事行動を意識した戦術核

これらは別々の話ではありません。

  • ICBMはアメリカの介入をためらわせるため
  • 短中距離ミサイルは、韓国や日本、在日米軍基地に圧力をかけるため

この組み合わせが、北朝鮮の核・ミサイル戦略の怖さです。

また、核とミサイルは、国内向けの道具でもあります。

北朝鮮は経済的に苦しい国です。
国民生活も厳しい。
食料事情も決して安定しているとは言えません。

その中で、体制は「強い国家」を演出する必要があります。

  • 核を持った
  • ミサイルを発射した
  • アメリカに対抗できる
  • 世界が北朝鮮を無視できない

そう見せることは、国内向けの権威づけにもなります。

では、北朝鮮は本当に核を使うつもりがあるのでしょうか?
それとも、ただの脅しなのでしょうか?

これは断定できません。

ただ、構造としては、核はまず「使わないために持つ」抑止の道具です。
核を持つことで、相手に攻撃をためらわせる。
その意味では、核は使わないことによって効果を発揮する兵器でもあります。

しかし、だからといって、絶対に使わないと言えるものでもありません。

  • 北朝鮮が体制の存亡がかかっていると判断した場合
  • 戦争がエスカレートした場合
  • 誤認や事故が起きた場合
  • 指導部が追い詰められた場合

そのときに、核使用のリスクがゼロだとは言えません。

「すぐ撃つ」と煽るのも違います。
「どうせ撃たない」と軽く見るのも違います。

だからこそ、冷静に見る必要があります。

「海に落ちたから大丈夫」なのか

北朝鮮のミサイル発射について、日本ではよくこう受け止められます。

「今回も海に落ちた」
「日本には被害がなかった」
「つまり大丈夫だった」

もちろん、実際に被害がなかったことは重要です。
でも、海に落ちたから大丈夫、とは限りません。

なぜなら、ミサイル発射は、そもそも海に落とす形で行われることが多いからです。

北朝鮮が試しているのは、「どこに落ちたか」だけではありません。

  • どのくらい飛んだのか
  • どの高度まで上がったのか
  • どんな軌道だったのか
  • どんな燃料を使ったのか
  • 発射準備にどのくらい時間がかかったのか
  • 移動式発射台から撃てるのか
  • 迎撃しにくくなっているのか

こうした情報が重要です。

たとえば、ロフテッド軌道という撃ち方があります。
これは通常より高い角度で撃ち上げることで、飛距離を抑えながら、高高度や再突入に関するデータを取る撃ち方です。

つまり、近くの海に落ちたからといって、射程が短いとは限りません。
実際には、通常の軌道で撃てばもっと遠くまで届く可能性がある。

また、固体燃料化も重要です。

液体燃料のミサイルは、発射前に燃料を注入する必要があり、その準備が探知されやすいです。
一方、固体燃料ミサイルは、より短い準備時間で発射でき、隠して運用しやすくなります。

これは、迎撃や事前探知を難しくします。

失敗もあるでしょう。
北朝鮮の発射がすべて成功しているわけではありません。

ですが、失敗しながらデータを取り、次に改良する。
それも兵器開発の一部です。

「今回も海に落ちたから大丈夫」と考えてしまうと、北朝鮮が何を試しているのかを見落としてしまいます。

問題は、毎回の発射が成功だったか失敗だったかだけではありません。
北朝鮮がどの方向に能力を高めようとしているのかです。

北朝鮮の脅威をどう見ればいいのか

北朝鮮の脅威は、恐怖だけで見ても、慣れだけで見ても足りません。

脅威を、いくつかに分けて見る必要があります。

まずは、能力です。

  • 北朝鮮は、日本、韓国、アメリカを攻撃できる兵器をどれだけ持っているのか
  • 核兵器を弾道ミサイルに搭載できるのか
  • どの射程のミサイルを持っているのか
  • どの程度、実戦で使える可能性があるのか

これは、「なんとなく怖い」という話ではありません。
日本を射程に収めるミサイルと、核弾頭化の可能性が結びついているからです。

次に、意図です。

北朝鮮は本当に使うつもりなのか。
それとも、抑止、威嚇、交渉カードとして持っているのか。

ここは簡単には見えません。

国家の意図は、外から完全には分かりません。
しかも、意図は状況によって変わります。

  • 平時は抑止のためでも、体制が危機に陥れば、使う可能性が高まるかもしれない
  • 本気で戦争するつもりがなくても、相手が誤解すればエスカレートするかもしれない

つまり意図は、能力とセットで見る必要があります。

さらに、信頼性と運用性も重要です。

  • 撃ったときに、狙った場所へ届くの
  • 再突入に耐えられるのか
  • 命中精度はどの程度なのか
  • 迎撃を突破できるのか。
  • すぐ撃てるのか
  • 隠して撃てるのか
  • 移動しながら撃てるのか

兵器は、持っているだけではなく、どう運用できるかが重要です。

そして最後に、誤算リスクがあります。

北朝鮮が本気で戦争するつもりがなくても、危険はあります。
ミサイル発射、軍事演習、警告、報復、挑発、制裁、サイバー攻撃。
こうしたものが積み重なると、どこかで誤認や過剰反応が起きるかもしれません。

危険なのは、意図的な攻撃だけではありません。
誤算によるエスカレーションも危険です。

北朝鮮のミサイルは、恐怖で見るだけでも、慣れで軽く見るだけでもなく、
能力、意図、信頼性、運用性、誤算リスクに分けて見る必要があります。

制裁されても、なぜ止まらないのか

北朝鮮は、国際社会から厳しい制裁を受けています。

  • 核開発
  • 弾道ミサイル
  • 武器取引
  • 金融取引
  • 輸出入
  • 海外労働者

さまざまな制裁があります。

それでも、北朝鮮の核・ミサイル開発は止まっていません。

なぜでしょうか?

大きな理由は、北朝鮮にとって、制裁で苦しむコストよりも、核を失うコストの方が大きいからです。

北朝鮮から見れば、制裁は苦しい。
しかし核を手放したら、体制そのものが危ない。

そう考えている限り、制裁だけで核を手放させるのは難しいのです。

さらに、制裁が続けば、北朝鮮は抜け道を探します。

  • 密輸
  • 瀬取り
  • 偽装会社
  • 海外労働者
  • 暗号資産窃取
  • ロシアや中国との関係

制裁は北朝鮮にコストをかけます。
ですが、そのコストが高くなるほど、北朝鮮は制裁を逃れる手段も探します。

そして近年は、制裁を監視する国際的な仕組みそのものも揺らいでいます。

北朝鮮を止めにくい理由は、制裁がないからではありません。

制裁があっても、北朝鮮にとって核を失うコストが大きすぎること。
そして、制裁を執行・監視する国際的な仕組み自体が、大国間対立の中で弱まりやすいこと。

ここに難しさがあります。

ミサイルはサイバー空間ともつながっている

北朝鮮の脅威は、ミサイルだけではありません。
サイバー攻撃もあります。

しかも、これはミサイルと別の問題ではありません。

北朝鮮にとってサイバー攻撃は、外貨を得る手段であり、制裁を回避する手段であり、核・ミサイル開発の資金源になりうる手段です。

とくに暗号資産窃取は重要です。

  • 銀行を襲うよりも、暗号資産取引所や関連事業者を狙う方が、国境を越えて資金を移しやすい
  • 盗んだ資金を洗浄し、制裁を迂回し、国家の優先事業に使うことができる

北朝鮮のサイバー攻撃は、単なるIT犯罪ではありません。

それは、制裁下の国家が外貨を得るための手段であり、核・ミサイル開発とつながる可能性のある行動です。

さらに、サイバー攻撃は資金調達だけではありません。

  • 情報を盗む
  • 防衛産業を狙う
  • 金融機関を狙う
  • 暗号資産事業者を狙う
  • 偽装求人で人をだます
  • IT労働者を海外企業に入り込ませる
  • 社会の弱い部分を突く

こうしたことも含まれます。

暗号資産を盗むこと、制裁を迂回すること、外貨を得ることは、核・ミサイル開発と別々の問題ではありません。
北朝鮮のミサイルは、サイバー空間ともつながっているのです。

日本は何を見落としてはいけないのか

日本にとって、北朝鮮は遠い国ではありません。

  • 地理的にも近い
  • 在日米軍基地もある
  • 拉致問題もある
  • ミサイルが日本上空を通過したこともある
  • サイバー攻撃の対象にもなりうる

そのため、日本にとっての北朝鮮の脅威は、ミサイルが飛んでくるかどうかだけではありません。

まず、弾道ミサイルと核です。

北朝鮮は、日本を射程に収めるミサイルを持っていると見られています。
さらに、核兵器の小型化・弾頭化が進んでいると評価されています。

これは、日本にとって現実の脅威です。

ただし、「明日ミサイルが落ちる」と不安になる必要はありません。
大事なのは、北朝鮮の能力がどの方向に進んでいるのかを冷静に見ることです。

次に、在日米軍基地です。

日本には在日米軍基地があります。
これは、日本の安全保障を支える存在である一方で、朝鮮半島有事の際には北朝鮮の軍事計画の中に入る可能性があります。

北朝鮮から見れば、日本はアメリカの後方拠点です。
そのため、日本は「関係ない国」ではいられません。

サイバー攻撃も、日本にとって無視できません。

  • 暗号資産事業者
  • 金融機
  • 防衛産業
  • 重要インフラ
  • 研究機関
  • 企業の採用活動

サイバー空間では、物理的な距離はあまり意味を持ちません。
北朝鮮から遠い場所にいても、攻撃対象になりえます。

そして、日本にとって北朝鮮を語るうえで、拉致問題は外せません。

拉致問題は、ミサイルとは違う種類の脅威です。
それは、国家の都合が、一人の人生を直接奪うことがあるという問題です。

北朝鮮の脅威は、ミサイルが飛んでくるかどうかだけではありません。
拉致問題は、国家の都合が一人の人生を奪うことがある、という意味で、日本にとって忘れてはいけない問題です。

さらに、朝鮮半島で有事が起きれば、日本にも影響があります。

  • 避難
  • 難民
  • 海上警備
  • 経済混乱
  • 物流の混乱
  • 在日米軍基地の運用
  • 情報の混乱

北朝鮮問題は、地図の向こう側の話ではありません。
日本の安全保障、経済、社会、そして一人ひとりの生活とつながっている問題です。

北朝鮮の人々を、体制と同一視しない

ここまで、北朝鮮を国家として見てきました。

  • 誰を敵と見ているのか
  • どの国に支えられているのか
  • なぜ核とミサイルを持つのか
  • なぜ制裁されても止まらないのか
  • なぜサイバー攻撃をするのか

国家の戦略として見れば、そこには一定の合理性があります。

ですが、ここで一旦立ち止まりたいと思います。

その合理性の中に、北朝鮮の一般の人々はどこにいるのでしょうか?

私は、北朝鮮の人々を責めたいわけではありません。
むしろ、北朝鮮で暮らす人々には、同情に近い感情があります。

北朝鮮では、厳しい統制の中で人々が暮らしています。

  • 自由に情報へアクセスできるわけではない
  • 自由に移動できるわけでもない
  • 政治体制に反対することも難しい
  • 食料事情も厳しく、生活が劣悪な状況に置かれている人もいます

脱北者の証言を読むと、そこには「危険な国家」という言葉だけでは見えない現実があります。

国家としての北朝鮮は、核とミサイルを持ち、周辺国に脅威を与えています。
ですが、そこで暮らしている人々の多くは、国の方針を自由に選べる立場にありません。

ここを混同してはいけないと思います。

北朝鮮政府を批判することと、北朝鮮の人々を責めることは違います。
核・ミサイル開発を批判することと、そこで暮らす人々を敵視することは違います。

北朝鮮の核・ミサイル開発を「体制生存の戦略」として見ることはできます。
ただし、その体制が守ろうとしているものは、国民一人ひとりの自由や生活とは必ずしも一致しません。

ここを見落とすと、「国家としては合理的」という説明が、そこで暮らす人々の犠牲を覆い隠してしまいます。

北朝鮮を理解する時には、体制の行動原理を見ることも重要ですが、
同時に、その体制の下で生きる人々のことを考えることも大事だと思うのです。

なぜ国際社会は北朝鮮を止められないのか

では、なぜ国際社会は北朝鮮を止められないのでしょうか?

北朝鮮は経済的には弱い国です。
巨大な経済力を持っているわけではありません。
世界中に大きな同盟網を持っているわけでもありません。

それでも、国際社会は北朝鮮を簡単には止められません。

理由は、北朝鮮が核・ミサイル・サイバー・後ろ盾を組み合わせて、簡単には手を出せない国になろうとしているからです。

まず、北朝鮮は核を体制生存に不可欠なものと見ています。
核を手放せば、体制が危ない。
そう考えている相手に、制裁だけで核を手放させるのは難しい。

次に、軍事的に止めようとすると、朝鮮半島有事になります。

韓国、日本、在日米軍基地に大きな被害が出る可能性がある。
中国やロシアがどう動くかも分からない。
核使用のリスクもある。

そのため、軍事的な選択肢は非常に危険です。

さらに、中国とロシアの存在があります。

中国は、北朝鮮の崩壊を望んでいません。
ロシアは、北朝鮮との関係を深めています。
国連安保理も、米中露対立の中で一致しにくいのです。

  • 制裁はあるが、制裁の抜け道もある
  • 監視の仕組みも弱まる
  • サイバー攻撃や密輸で資金を得る

北朝鮮を止めにくいのは、弱い国だからではありません。
弱い国が、核を持つことで「簡単には手を出せない国」になろうとしているからです。

理解することは、許すことではない

北朝鮮は、ただ理解不能にミサイルを発射しているわけではありません。

  • アメリカを体制転覆の脅威として見ている
  • 韓国を敵対国家として位置づける方向に進んでいる
  • 日本を米国側の軍事ネットワークの一部として見ている
  • ロシアや中国との関係を使いながら、孤立を完全な孤立にしないようにしている
  • 核とミサイルを、体制生存、交渉、威圧、国内統治の道具として使っている
  • 制裁を受けながらも、サイバー攻撃や制裁逃れで外貨を得ようとしている

こうして見ると、北朝鮮の行動には、国家としての戦略があります。

ですが、それは正当化できません。

核・ミサイル開発は、日本にとっても韓国にとっても現実の脅威です。
サイバー攻撃は、民間企業や金融機関を巻き込みます。
拉致問題は、一人ひとりの人生を奪った問題です。
そして、北朝鮮の人々もまた、体制の下で自由や生活を制限されています。

北朝鮮を理解することは、北朝鮮を許すことではありません。
ですが、理解しないまま「怖い国」として片づけたり、逆に「また海に落ちた」と軽く見たりすると、本当の脅威を見誤ります。

ミサイルの先には、核があります。
制裁があります。
サイバー攻撃があります。
拉致問題があります。
そして、体制を守るために自由を奪われている人々がいます。

だからこそ、恐怖でも慣れでもなく、構造として見ていく必要があるのだと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

もっと深く知りたい方へ

北朝鮮についてさらに知るには、「怖い国」として見るだけではなく、国家の仕組み、制裁逃れ、そこで暮らす人々の生活を分けて見ていく必要があると思います。

ここでは、この記事の理解を補う本をいくつか紹介します。

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石坂浩一 編著『北朝鮮を知るための55章【第2版】』

北朝鮮について、歴史、政治、経済、社会、文化、外交を広く知りたい方に向いている入門書です。

この記事では、北朝鮮の核・ミサイル・制裁・サイバーを中心に扱いましたが、北朝鮮という国を理解するには、それだけでは足りません。国家の成り立ちや社会の仕組みまで含めて、全体像をつかみたい方におすすめです。

古川勝久『北朝鮮 核の資金源——「国連捜査」秘録』

この記事では、「制裁されても、なぜ北朝鮮の核・ミサイル開発は止まらないのか」を扱いました。

この本は、国連安保理の最前線で北朝鮮制裁の調査に関わった著者が、北朝鮮の非合法ネットワークや制裁逃れの実態を追った本です。核・ミサイル開発を支える資金や物資が、どのように動いているのかを知りたい方に向いています。

「北朝鮮帰国者」の記憶を記録する会 編『証言・北朝鮮帰国者——祖国に渡った「在日」はどう生きたか』

この記事では、北朝鮮政府や体制と、北朝鮮で暮らす一般の人々を分けて考えることを大切にしました。

この本は、北朝鮮帰国事業で北朝鮮へ渡り、その後に脱北した人々の証言をもとにした一冊です。北朝鮮を国家戦略や安全保障だけでなく、そこで生きた人々の生活史として見たい方に向いています。

参考文献・出典

この記事では、主に以下の公的機関・専門機関・報道機関の情報を参考にしました。

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