スラムはなぜ生まれるのか|治安の悪さだけではない都市と貧困の構造

狭い路地に密集する住宅地の奥に近代的な高層ビル群が見える都市景観。スラムと現代都市の格差を象徴している 複雑な世界を知る

フィリピンのセブ島を訪れたとき、スラムの近くに行く機会がありました。

そのとき、タクシーの運転手から言われました。

「時計もネックレスも身につけてるアクセサリは全て外してなさい。」
「引きちぎられてでも奪われるぞ。」

日本で生活していると、街を歩く前に時計やネックレスを外すことはあまりありません。

もちろん、日本にも危ない場所はあります。
夜道で気をつけることもあります。
繁華街で警戒することもあります。

それでも、「身につけているものを外さないと危ない」と言われる経験は、海外経験がなかった当時の私にとってかなり衝撃的でした。

そのことを振り返って思いました。

  • なぜ、同じ都市の中でも、そこまで違う空気の場所が生まれるのか?
  • スラムは、単に治安が悪い場所なのか?
  • それとも、都市の仕組みが生み出した、もっと深い問題なのか?

今回は、スラムが生まれる構造について考えてみます。

そもそもスラムとは何か――定義はあるのか

スラムが生まれる過程を5段階で示した図解。都市に仕事が集まり、人が流入し、正式な住宅に入れず、危険な土地に住み始め、インフラ不足のまま共同体が拡大していく流れを表している
スラムは、誰かが計画して作る街ではありません。都市に仕事が集まり、人が流入し、正式な住宅に入れないとき、都市の隙間に非公式な生活空間が生まれていきます

そもそも、スラムとは何でしょうか?

日本語で「スラム」と聞くと、どうしても次のようなイメージが浮かびやすいかもしれません。

  • 貧しい場所
  • 治安が悪い場所
  • 危険な場所
  • 汚い場所
  • 犯罪が多そうな場所

たしかに、そうした側面があるスラムもあります。

ですが、スラムを単に「治安が悪い場所」ではありません。

国連などでは、スラムを考えるときに、いくつかの条件が使われます。

たとえば、次のようなものです。

  • 安全な水にアクセスできるか
  • 衛生設備があるか
  • 十分な居住面積があるか
  • 住宅が耐久性のある構造か
  • 安定した居住権があるか

つまり、スラムとは、単に貧しい人が集まっている場所ではありません。

  • 住まい
  • 水道
  • 下水。
  • 道路。
  • 土地の権利。
  • 行政サービス
  • 公共インフラ

こうしたものが十分に整っていない生活空間です。

  • 家はあるが、十分に安全ではない
  • 街はあるが、正式な都市計画の中に十分入っていない
  • 人は住んでいるが、行政サービスが届きにくい

スラムとは、そういう場所です。

スラムに住む人の多くは、普通に働き、暮らし、家族を育てています。

スラムの問題点は、そこに住む人ではありません。

その人たちの生活を支えるはずの住宅、インフラ、土地の権利、公共サービスが弱いことなのです。

スラムはいつからあるのか

では、スラムはいつからあるのでしょうか?

貧しい人が都市の劣悪な住環境に集まる現象自体は、定かではないもののかなり昔からありました。

都市には、いつの時代も格差があります。

  • 豊かな人が住む場所
  • 商人が集まる場所
  • 職人が働く場所
  • 貧しい人が密集する場所
  • 外から来た人が住む場所

こうした分かれ方は、古い都市にもありました。

ちなみに、英語の「スラム(slum)」の語源は、19世紀初頭のロンドンの隠語(ストリート・スラング)に由来するとされています

ただし、現代的な意味でのスラムは、近代以降に大きく形を変えたと考えるとわかりやすいかもしれません。

特に大きかったのは、工業化と都市化です。

ざっくりと流れを書くと下記のようになります。

工場ができる

都市に仕事が集まる

地方から人が流れ込む

人口が一気に増える

しかし、住宅が追いつかない

水道も下水も足りない

衛生環境が悪化する

過密な貧困地区が生まれる

近代以降、都市化と工業化によって、その規模と形が大きく変わりました。

  • 昔からある都市の貧困
  • 近代以降の急速な都市化
  • 現代の住宅政策とインフラ不足

これらが重なって、現代のスラムが生まれているのだと思います。

スラムは、昔からある都市の貧困が、近代以降の急速な都市化によって巨大化したものだと言えるのかもしれません。

スラムはどうやって生まれるのか

では、スラムはどのように生まれるのでしょうか。

スラムは、誰かが「スラムを作ろう」と思って作るものではありません。

多くの場合、流れはこうです。

1. 都市に仕事が集まる

都市には仕事があります。

ですが、地方では仕事が少なくなりがちです。

そうすると、農村では現金収入が得にくくなります。

家族を養うために、都市へ出る必要が出てきます。

そうした理由で、人は都市に向かいます。

2. しかし、正式な住宅には入れない

都市に来たからといって、すぐに安定した生活ができるわけではありません。

問題になるのが、住まいです。

正式な住宅に住むには、お金が必要です。

ですが、都市に来たばかりの低所得者には、それがありません。

  • 収入は不安定
  • 仕事は日雇い
  • 保証人はいない
  • 家賃は高い
  • 低所得者向け住宅も足りない

すると、都市には仕事があるのに、住む場所がないという状態になります。

ここに、スラムが生まれる大きな理由があります。

3. 危険な土地や空いている土地に住み始める

正式な住宅に入れない人たちは、都市の中で住める場所を探します。

ただし、条件の良い土地はすでに使われています。

そのため、残されているのは、普通なら住みにくい場所です。

住みにくい場所しか都市に残れる場所がないのです。

  • 都市から離れれば、仕事に行けない
  • 交通費がかかる
  • 収入が減る
  • 学校や病院から遠くなる

そのため、危険でも、狭くても、不安定でも、都市の仕事に近い場所に住んでいきます。

スラムは、そこにしか住めないから、住まざるを得ない場所なのです。

4. そこに生活と共同体ができる

最初は、仮の家かもしれません。

ですが、そこに人が増えていきます。

そうすると、徐々に共同体が生まれていきます。

家族が増える

親戚が来る

同郷の人が集まる

小さな店ができる

水や電気を非公式に引く

路地ができる

助け合いが生まれる

こうして、生活の場が徐々にできてきます。

ただし、正式な都市計画の中で作られた街ではないため、インフラは弱いままです。

  • 道路は狭い
  • 下水がない
  • 水道が不安定
  • 消防車が入れない
  • 土地の権利が不安定
  • 警察や行政の目が届きにくい

こうして、都市の中にもう一つの街ができていきます。

スラムは、誰かが計画して作った街ではありません。
都市で生きたい人たちが、都市に住めないときに、そこに生まれてしまう街なのです。

スラムは具体的にどんな場所にできるのか

スラムが都市のどこにできやすいのかを示した図解。港、工場、市場、観光地の裏側、鉄道沿い、川沿い、高架下、急斜面、ごみ捨て場、洪水リスクの高い場所を示している
スラムは都市から遠く離れた場所だけにできるわけではありません。仕事に近く、家賃が安く、正式な住宅地として整備されにくい場所に生まれやすいのです

スラムは、都市の外れにだけあるわけではありません。

むしろ、都市の中心機能のすぐ近くにあることも多いです。

なぜなら、そこに住む人たちは、都市で働く必要があるからです。

たとえば、スラムは次のような場所にできやすいです。

  • 港の近く
  • 工場の近く
  • 市場の近く
  • 観光地の裏側
  • 高級住宅地の近く
  • 商業地の近く
  • 鉄道沿い
  • 川沿い
  • 高架下
  • 急斜面
  • 湿地
  • 埋立地
  • ごみ捨て場の近く
  • 洪水や地滑りのリスクがある場所
  • 土地の権利が曖昧な場所

つまり、スラムは都市から切り離された場所ではありません。

都市の経済活動と、かなり近い場所にあります。

  • 高級ホテルの裏に、貧困地区がある
  • 観光地の近くに、インフォーマル居住地がある
  • ビジネス街の近くに、低所得者の密集地がある
  • 富裕層の住宅地の近くに、家事労働者や日雇い労働者の住む場所がある

こういうことが起きます。

一見すると、矛盾しているように見えます。

ですが、都市は低所得者の労働を必要としています。

都市の表側を支えるためには、裏側で働く人が必要です。

しかし、その人たちが住める住宅を、都市が十分に用意しきれていません。

そのため、都市のすぐ近くに、正式ではない生活空間が生まれます。

スラムは、都市の外にある問題ではありません。

都市の仕事や消費を支えるすぐ近くにありながら、都市の正式な制度からは外されている場所なのです。

世界のどんな都市にスラムはあるのか

スラムは、一つの国だけの問題ではありません。

世界中の都市に、さまざまな形で存在しています。

ただし、呼び方や実態は地域によって違います。

  • スラム
  • インフォーマル居住地
  • スクウォッター地区
  • バラック街
  • ファヴェーラ
  • 不法占拠地区
  • 低所得者密集地区

呼び方は違っても、共通しているのは、都市の正式な住宅やインフラの外側に、多くの人が暮らしているということです。

たとえば、フィリピンのマニラやセブのような都市では、急速な都市化と住宅不足の中で、インフォーマル居住地が問題になります。

私も実際にセブ島に行った時にスラムを目の当たりにしました。

一方で、近くの海に行けば日本人カップルが結婚式をしている場面にも遭遇し、
同じ都市に貧困と華やかさが同居している、というアンバランスな感覚に陥りました。

インドのムンバイでは、ダラヴィのような大規模な居住地がよく知られています。

ダラヴィは、単に貧しい住宅地として語られるだけではありません。
小さな工場、革製品、リサイクル、食品加工など、さまざまな経済活動の場でもあります。

スラムは「ただ貧しい場所」ではなく、都市経済と深く結びついた場所でもあるのです。

ケニアのナイロビには、キベラのようなインフォーマル居住地が知られています。

  • 都市の成長
  • 住宅不足
  • インフラ不足
  • 貧困
  • 行政サービスの不足

こうした問題が重なる例として見ることができます。

ブラジルのリオデジャネイロでは、ファヴェーラがよく知られています。

  • 斜面に広がる住宅地
  • 観光地や富裕層地域との近さ
  • 強い共同体
  • 一方で、治安や行政サービスの課題

リオのファヴェーラを見ると、都市の豊かさと貧困が、かなり近い距離に並んでいることがわかります。

この記事で言いたいのは、こうした都市が危ないということではありません。

こうしたスラムが特定の国の「民度」の問題ではないということです。

  • 都市化のスピード
  • 住宅の不足
  • 格差
  • 土地制度
  • 行政サービスの遅れ
  • 雇用の不安定さ

これらが重なると、世界中の都市でスラムは生まれうるのです。

スラムは、特定の国の失敗ではありません。
都市が貧しい人をどう受け止めるかという、世界共通の問題だと思うのです。

先進国にもスラムはあるのか?

では、先進国にもスラムはあるのでしょうか?

結論から言うと、あります。

ただし、フィリピン、インド、ケニア、ブラジルなどで見られるような巨大な非公式居住地とは、少し形が違います。

先進国では、スラムという言葉よりも、別の言葉で表れることが多いです。

  • ホームレス
  • テント村
  • 車上生活
  • ネットカフェ難民
  • 過密住宅
  • 老朽化した低所得者向け住宅
  • 移民や難民の不安定な居住
  • 家賃が払えない人の住宅不安

たとえば、アメリカでは、大都市の一部でホームレスのテント村が社会問題になっています。

  • 道路沿い
  • 高架下
  • 公園
  • 空き地
  • 都市の中心に近い場所

そこに、住まいを失った人たちが集まることがあります。

これは、途上国型のスラムとは見た目が違います。

ですが、根本には似た問題があります。

  • 都市に仕事やサービスはあるが、家賃が高い
  • 低所得者向け住宅が足りない
  • 精神疾患や依存症、失業、家庭崩壊、移民問題などが重なる
  • 行政サービスや支援に届かない人がいる

その結果、都市の中に不安定な居住が生まれるのです。

日本には、海外の巨大スラムのような場所はあまり見られません。

ですが、貧困や住宅不安がないわけではありません。

  • ホームレス
  • ネットカフェ難民
  • 家賃を払えない人
  • 住居を失いそうな人
  • 老朽アパートに暮らす人
  • 孤独死が起きる住宅
  • 支援につながれない人
  • 住所がないことで仕事や福祉にアクセスしにくい人

日本にスラムがないのではなく、貧困がスラムとは別の形で見えにくく存在しているのかもしれません。

  • 途上国では、貧困が「非公式居住地」として見えやすい
  • 先進国では、貧困が「孤立」「ホームレス」「住宅不安」「見えにくい困窮」として現れやすい

そう考えると、スラムは遠い国だけの問題ではありません。

都市に人が住めなくなると、どうなるのか。

どの国でも起こりうる問題だと思うのです。

スラムと治安の悪さは同じなのか

では、スラムは、単に治安が悪い場所なのでしょうか?

結論から言うと、同じではないと思います。

もちろん、スラムと治安の悪さが重なることはあります。

  • 警察や行政の目が届きにくい
  • 道が狭く、見通しが悪い
  • 街灯が少ない
  • 土地の権利が不安定
  • 仕事が不安定
  • 教育や医療が弱い
  • 非公式な権力者や犯罪組織が入り込みやすい

こうした条件があると、犯罪や暴力、搾取が起きやすくなります。

ですが、スラムそのものは、まず住宅と都市の問題です。

  • 水がない
  • 下水がない
  • 家が脆い
  • 道が狭い
  • 土地の権利が不安定
  • 行政サービスが届きにくい
  • 学校や医療にアクセスしづらい
  • 仕事はあるが不安定。

これらがスラムの本質です。

その結果として、治安が悪化しやすい条件が生まれる。

この順番が大事だと思うのです。

スラムに住む人が危険なのではありません。
人を危険に近づける条件が、スラムには集まりやすいのです。

ここを雑に見ると、スラムに住む人への偏見に繋がってしまいます。

「貧しい人は危ない」
「スラムの人は犯罪をする」
「近づかない方がいい人たちだ」

そうではありません。

スラムは「危ない人たちの場所」ではなく、「人を危険に近づける条件が集まってしまった場所」と見るべきなのだと思います。

スラムに足を踏み入れると何が起きるのか――外部者が気をつけるべきこと

冒頭でも触れましたが、私はスラムの近くまで足を踏み入れたことがあります。

その際、タクシーの運転手に、時計とネックレスを外すよう言われました。

その言葉は、かなり強く印象に残っています。

私は今まで、時計やネックレスを外さなければいけないような経験をしたことはありませんでした。

ですが、その場所では違いました。

時計やネックレスは、単なる装飾品ではありません。

「持っている人」と「持っていない人」の差を、一瞬で可視化するものです。
そして、彼らからしたら大金が歩いているように見えてしまうかもしれません。

もちろん、これは「貧しい人は盗む」という話ではありません。

ですが、貧富の差が近距離で見える場所では、高価なものを身につけていること自体がリスクになります。

外部者は、かなり無防備です。

現地の人が「外せ」と言うなら、素直に従うことに越したことはありません。

一般的に、スラムや治安が不安定な地域に近づくときは、少なくとも次のようなことには気をつける必要があります。

  • 高価な時計をつけない
  • ネックレスやアクセサリーを目立たせない
  • スマホを不用意に出さない
  • カメラを構え続けない
  • 現金を見せない
  • 一人で入らない
  • 夜に入らない
  • 現地事情を知る人と行動する
  • 事前に安全情報を確認する
  • 写真を勝手に撮らない
  • 貧困を見学するような態度を取らない
  • 危ないと言われた場所には入らない

特に、写真には注意が必要です。

スラムは観光資源ではありません。
そこには、人の生活があります。

自分にとっては珍しい風景でも、そこに住む人にとっては日常です。
勝手にカメラを向けることは、相手の尊厳を傷つけることがあります。

そのため、スラムに入るなら、危険を避けるだけでなく、態度にも注意が必要です。

  • 見学気分で入らない
  • 貧困を消費しない
  • そこに住む人を「かわいそうな人たち」として眺めない
  • 現地の人の助言を軽く見ない

スラムに足を踏み入れるということは、自分がその場所のルールを知らない外部者になるということです。

その自覚が必要なのだと思います。

スラムはなぜ簡単には無くならないのか

では、スラムはなぜ簡単には無くならないのでしょうか?

  • 危険なら、壊せばいい
  • 不衛生なら、移転させればいい
  • 見た目が悪いなら、再開発すればいい

そう考えたくなるかもしれません。

ですが、スラムは「壊せば終わり」ではありません。

なぜなら、そこには生活があるからです。

住民は、そこで暮らしています。

スラムは、住民にとっては生存戦略でもあります。

もちろん、理想的な住環境ではありません。

ですが、そこに住むことで、都市に近づけます。
仕事に行けたり、生活コストを抑えられたりします。

そのため、遠くの公営住宅に移されたとしても、それで解決するとは限りません。

  • 家は新しくなるかもしれないが、仕事場から遠くなる
  • 交通費がかかる
  • 学校が遠くなる
  • 親戚や近所の助け合いから切り離される
  • 小さな商売ができなくなる
  • 家賃や維持費が払えない

そうなれば、生活はむしろ苦しくなることがあります。

スラムが無くならない理由は、単に住民がそこに居座っているからではありません。

都市が、低所得者の生活を正式に受け止める仕組みを十分に作れていないからです。

都市は、低所得者の労働を必要としています。

  • 建設
  • 清掃
  • 飲食
  • 観光
  • 家事労働
  • 日雇い労働
  • 屋台
  • 物流
  • ごみ回収
  • 小売
  • 警備

ですが、その人たちが住める住宅を十分に用意していない。

この矛盾がある限り、スラムは形を変えて生まれ続けます。

スラムを壊すことはできます。

しかし、そこに住む人の仕事、学校、交通、共同体を壊してしまえば、問題は別の場所に移動するだけです。

国や国際機関は何をしているのか

では、国や行政、国際機関はスラムに対して何をしているのでしょうか?

対策は、大きく分けるといくつかあります。

1. 強制撤去・再開発

一つは、スラムを撤去して再開発する方法です。

  • 道路を作る
  • 商業施設を作る
  • 高層住宅を作る
  • 都市の景観を整える
  • 危険な地域から住民を移す

見た目には、街はきれいになります。

しかし、この方法には大きな問題があります。

住民の生活が壊れることがあるからです。

  • 仕事から遠くなる
  • 学校に通えなくなる
  • 交通費が増える
  • 近所の助け合いが消える
  • 小さな商売ができなくなる
  • 移転先の家賃や維持費が払えない

つまり、たとえ建物は新しくなっても、生活は悪化することがあります。

強制撤去や一方的な再開発は、慎重に考える必要があるのです。

2. スラム改善

もう一つは、住民を追い出すのではなく、今ある居住地を改善する方法です。

たとえば、次のようなものです。

  • 水道を整える
  • 下水を整える
  • 道路を整備する
  • 電気を安全にする
  • ごみ収集を入れる
  • 学校に通いやすくする
  • 診療所を作る
  • 火災対策をする
  • 洪水対策をする
  • 土地や住居の権利を安定させる

これは、スラムを「消す」のではなく、そこに住む人の生活条件をよくする考え方です。

3. スラムを新しく生まれにくくする

既にあるスラムを改善するだけでは、不十分です。

新しいスラムが生まれ続けるなら、根本的な解決にはなりません。

つまり必要なのは、そもそもスラムが生まれにくい都市を作ることです。

そのためには、住宅だけでなく、都市全体を考える必要があります。

  • 低所得者向け住宅
  • 家賃補助
  • 公共交通
  • 都市計画
  • 土地制度
  • 雇用政策
  • 災害に強い住宅
  • 地方の雇用づくり
  • 教育
  • 医療
  • 福祉

都市に仕事を求める人が来ること自体は自然です。

問題は、その人たちが住める場所を都市が用意できていないことです。

スラム対策は住宅政策であり、交通政策であり、雇用政策であり、福祉政策でもあるのです

住民参加

さらに大切なのが、住民参加です。

外から専門家や行政が来て、

「ここは危ないから移転しなさい」
「この住宅を作ったから住みなさい」
「この街区計画に従いなさい」

と決めても、うまくいかないことがあります。

住民には、住民の生活があります。

  • どこで働くか
  • 子どもを誰に預けるか
  • どの道を通るか
  • どこで水を得るか
  • どの店でツケが効くか
  • どの親戚が近くにいるか
  • どの人に助けを求められるか

こうした生活のネットワークは、外からは見えにくいものです。

そのため、スラム改善には住民の声が必要です。

  • 住民を問題として扱うのではなく、住民を当事者として扱う
  • 住民を追い出すのではなく、住民と一緒に生活条件を改善する

そこに、スラム対策の難しさがあるのです。

おわりに:スラムは、都市が見たくない矛盾が集まる場所

セブ島で、時計とネックレスを外すよう言われたこと。

あのとき私は、「日本とは違う場所に来た」と強く感じました。

ただ、今振り返ると、それは単に「怖い場所に来た」という話ではなかったのだと思います。

そこには、都市の中に別のルールで動く場所があるという現実がありました。

  • 同じ都市なのに、守られ方が違う
  • 同じ都市なのに、住まいの安全が違う
  • 同じ都市なのに、警察や行政の届き方が違う
  • 同じ都市なのに、身につけているものの意味まで変わる

スラムは、単なる治安の悪い場所ではありません。

都市が必要としている労働者を、正式な住宅と公共サービスで受け止めきれなかった結果として生まれる場所です。

もちろん、スラムに住む人が危険なのではありません。

人を危険に近づける条件が、スラムには集まりやすいのです。

スラムと言われて、怖い場所として捉えるのではなく、

  • なぜ、この場所が生まれたのか
  • なぜ、この場所に人が住まざるを得ないのか
  • なぜ、都市はその人たちを正式な形で受け止められなかったのか
  • なぜ、貧困は都市のすぐ近くにありながら、見えないことにされるのか

そこまで考えたとき、都市が抱える矛盾が垣間見れるようになるかもしれません。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

あわせて読みたい本

この記事では、セブ島で感じた「治安の悪さ」を入口に、スラムが生まれる構造を見てきました。

ここからさらに深く考えたい方には、次の本がおすすめです。

『家を失う人々――最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録』マシュー・デスモンド

この記事では、先進国にもスラムはあるのか?という問いを扱いました。

この本は、アメリカの貧困地区で、住まいを失う人々の現実を描いたノンフィクションです。

スラムという形ではなくても、先進国にも住宅不安はあります。

  • 家賃が払えない
  • 退去させられる
  • 安定した住所を持てない
  • 仕事や学校や福祉につながりにくくなる
  • 住まいを失うことで、さらに貧困から抜け出しにくくなる

スラムが「途上国の非公式居住地」として見えるのに対して、先進国では、貧困がホームレス、立ち退き、過密住宅、車上生活、ネットカフェ難民のような形で現れることがあります。

先進国の住宅問題と貧困を考えたい方におすすめです。

『アメリカ大都市の死と生』ジェイン・ジェイコブズ

スラムそのものの本ではありませんが、都市の安全や街のあり方を考えるうえで、とても重要な本です。

この本では、都市を上から計画するのではなく、実際にそこに住み、歩き、働く人々の視点から街を見ることの大切さが語られています。

特に有名なのが、「街路の目」という考え方です。

  • 人の目がある
  • 店が開いている
  • 通りに生活がある
  • 住民や通行人が自然に街を見守っている

こうした状態は、街の安全につながります。

スラム改善を考えるときも、これは大切です。

都市を「人が生きる場所」として考えるために、あわせて読みたい一冊です。

あわせて読みたい記事

なぜ治安は悪くなるのか――国、街、学校、SNSに共通する「安心が壊れる構造」

スラムの記事の前提になる記事です。

治安が悪いとは、単に犯罪が多いことだけではありません。

  • 安心してそこにいられるか
  • 弱い人が守られるか
  • ルールが機能しているか
  • 怖い人や強引な人が場を支配していないか

スラムでも、同じ問いが重要になります。

スラムに住む人が危険なのではありません。
人を危険に近づける条件が、そこに集まりやすいのです。

その構造をより広く考えたい方におすすめです。

なぜ治安は悪くなるのか――国、街、学校、SNSに共通する「安心が壊れる構造」

なぜ歓楽街は治安が悪くなりがちなのか――歌舞伎町から考える、酒・金・孤独・匿名性の構造

歓楽街とスラムは、まったく同じ問題ではありません。

歓楽街は、酒、金、深夜、匿名性、孤独が重なりやすい場所です。
スラムは、住宅、インフラ、土地の権利、公共サービスの不足が重なりやすい場所です。

ただし、共通点もあります。

どちらも、弱い人や慣れていない人が狙われやすくなる条件を持っています。

歓楽街では、酔った人、孤独な人、土地勘のない人が狙われる。
スラムでは、外から来た人、土地勘のない人、高価なものを身につけた人が無防備になることがある。

「場所が人を危険に近づける構造」を考えたい方におすすめです。

なぜ歓楽街は治安が悪くなりがちなのか――歌舞伎町から考える、酒・金・孤独・匿名性の構造

ハイチはなぜ国家崩壊に近い状態になったのか

スラムの記事は、都市の中に非公式な生活空間が生まれる構造を扱いました。

一方で、ハイチの記事では、国家そのものが人々を守れなくなっていく構造を扱っています。

規模は違います。

しかし、共通する部分もあります。

  • 行政が機能しない
  • 警察や司法が届かない
  • 公共サービスが崩れる
  • 怖い人や武装した人が場を支配する
  • 人々が安心して暮らせなくなる

スラムを「都市の中の制度の空白」として見たあとに、国家レベルで制度が壊れると何が起きるのかを考えたい方におすすめです。

ハイチはなぜ国家崩壊に近い状態になったのか

参考文献

この記事を書くにあたり、以下の資料を参考にしました。

スラムの定義・世界的な規模に関する資料

スラムの歴史・近代都市化に関する資料

スラム改善・国際機関の取り組みに関する資料

スラム改善の具体例に関する資料

先進国の住宅不安・ホームレスに関する資料

参考にした本

  • マイク・デイヴィス『スラムの惑星――都市貧困のグローバル化』
    • 世界的なスラム拡大と都市貧困の構造を考えるための参考にしました。
  • Doug Saunders『Arrival City』
    • 地方から都市へ移住する人々と、都市の入口としての居住地を考えるための参考にしました。
  • Robert Neuwirth『Shadow Cities: A Billion Squatters, a New Urban World』
    • スクウォッター地区やインフォーマル居住地の生活実態を考えるための参考にしました。
  • マシュー・デスモンド『家を失う人々――最貧困地区で生活した社会学者、1年余の記録』
    • 先進国における住宅不安、立ち退き、貧困の連鎖を考えるための参考にしました。
  • ジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』
    • 都市の安全、街路の目、住民の生活と都市計画の関係を考えるための参考にしました。

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